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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)146号 判決 1993年4月14日

東京都中野区本町5丁目9番12号

原告

株式会社正栄機械製作所

代表者代表取締役

瀬戸良皓

訴訟代理人弁理士

野口秋男

復代理人弁理士

須田孝一郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

高橋詔男

中村友之

涌井幸一

主文

特許庁が、平成2年審判第657号事件について、平成3年4月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年4月19日にした特許出願(特願昭58-68867号)を原出願とする変更出願として、昭和61年11月6日、名称を「ナイフ紙折り機のナイフ調節装置」とする実用新案登録出願をした(実願昭61-170373号)が、平成元年11月24日、拒絶査定を受けたので、平成2年1月23日にこれに対し、不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成2年審判第657号事件として審理したうえ、平成3年4月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月8日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

別添審決書写し記載のとおりである。

3  審決の理由

別添審決書写し記載のとおり、審決は、本願考案の原出願前に日本国内で頒布された刊行物である実公昭47-18009号公報(以下「引用例」という。)の記載を引用し、遊び芯棒間にレバーを挟入する引用例考案の構成に代えて、電動制御機構により回動する電動クランク機構を採用し、クランク機構のクランクピンによって往復動部材である遊び芯棒を上下にスライドさせるべく、遊び芯棒にクランクピンを螺着する構成とすることは、当業者が格別困難性を要しないことであり、これによって、予測しうる以上の格別の効果が生じるものとも認められないとし、その他の引用例との相違点についても、当業者が必要に応じて適宜採用しうる単なる設計事項であり、本願考案は、引用例考案と従来周知の事柄に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により、実用新案登録を受けることができないと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由

審決の理由のうち、本願考案の要旨の認定、引用例の記載内容の認定、後記1の点を除く本願考案と引用例考案との一致点の認定、相違点<2>、<3>の認定は、いずれも認める。

しかしながら、審決は、本願考案と引用例考案との本質的な構成上の相違を看過して、一致点の認定を誤り(取消事由1)、その結果、相違点の判断において、上記構成の相違に基づく本願考案の格別の作用効果を看過し、本願考案の進歩性につき判断を誤り(取消事由2)、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1

審決は、本願考案と引用例考案との対比において、引用例考案のレバー挟持体5、5’と本願考案の遊び芯棒(25)が対応すると認定し、両考案は、「筒孔内をスライドする遊び芯棒を遊嵌内蔵させ」てなるナイフ紙折り機である点で一致すると認定しているが、誤りである。

引用例におけるレバー挟持体5、5’は、図面で明らかなごとく、2個の別個の部材であり、その中間にレバー8の先端部が嵌挿されている構成となっている。これに対し、本願考案の遊び芯棒(25)は、1本の長棒体であって、その芯棒にクランクピン(10)を螺着させてなる構成を採用している。

このような両考案の構成の本質的な相違により、後記2のとおり、両考案の間には、その作用効果に大きな違いが生ずるから、引用例考案のレバー挟持体とレバーの構成に代えて、本願考案における遊び芯棒を採用することは、当業者にとって必ずしも容易ではない。

審決は、両考案の重要な構成上の相違点を看過した結果、両考案の対比認定及び一致点認定を誤った。

2  取消事由2

審決は、相違点<1>の判断において、回転運動を往復運動に変える手段として、往復動部材にクランクピンが螺着されたクランク機構は、従来周知のものであり、電動制御機構によりクランク機構を回動することも従来周知であり、ナイフ紙折り機においてそれらの機構を採用することも従来周知のことであるから、引用例の構成に代えて、遊び芯棒にクランクピンを螺着する構成を採用することは、当業者が格別の困難を要しないことであり、また、そうすることによって、予測しうる以上の格別の効果が生じるものとも認められないと判断したが、誤りである。

引用例考案におけるレバー挟持体は、上記1のとおり、2個の部材からなり、これを上下動する機構は、2個のレバー挟持体とこれに挟まれたレバーの先端部から構成され、レバーと上下の各挟持体が絶えず互いにこすれ合い、ぶつかり合うから、接触部分の磨耗が著しいばかりでなく、騒音の発生がきわめて大きい。また、部材の磨耗により、レバーの動きはロッド内の調節機構に支障を与え続け、バネの変調も起こり易く、これらが相関してロッド駆動にガタが起こる危険性を有する。さらに、レバーに上下動を与えるためには、長大な駆動機構を必要とするなど多くの欠点を有している。

これに対し、本願考案は、新規な構成を採用することにより、匣体のナイフ軸に設けられたネジ操作により、直接ナイフの微調整ができ、機構部材の磨耗がないため、ナイフの上下運動が確実に行え、電動クランクピン機構なので従来の長大なレバー駆動機構を必要とせず、装置の小型化が図れ、駆動装置に騒音が発生せず、磨耗も生じないから、装置の長期使用、安定性が確実に保障され、もって、高性能の紙折り装置を提供できる点で格別の作用効果を奏するものである。

審決は、本願考案の上記のような格別の作用効果を看過し、誤った判断をした。

次に、引用例には、本願考案の必須の構成、特に、匣体内に電動制御機構により回動する電動クランク機構を設け、筒内をスライドする遊び芯棒を内蔵せしめ、クランクピンを該芯棒に螺着する、という各構成を有機的に結合することは全く開示されておらず、これらの有機的結合は、本願考案においてなされた新規な構成である。

また、審決は、クランクピンが螺着されたクランク機構と電動制御機構によりクランク機構を回動する構成をナイフ紙折り機において採用することが周知であるとし、特開昭53-14027号公報(以下「周知例」という。)を例示しているが、周知例には、「クランクピンを該芯棒に対し、該ピンに対するナイフ軸壁に穿設した長孔を通して螺着する」という本願考案の構成は、全く開示されていないほか、本願考案は、クランク機構部だけでなく、本願考案の要旨とする構成の有機的結合を必須の要素としており、これによって上記のような格別の作用効果を奏するものであるから、進歩性を有する。これを周知事項に基づき、引用例の構成に代えて本願考案の構成を採用することは、当業者に格別の困難を要しないとした審決の判断は誤りである。

さらに、審決は、相違点<3>の判断において、ゆるみ止めとして固定ナットを用いることは、単なる設計事項であると判断するが、この構成は、本願考案の必須の構成をなすものであり、何らの合理性なく上記のとおり判断する審決には審理不備の違法がある。

第4  被告の主張

以下のとおり、審決の認定判断は相当であり、原告主張の取消事由は存しない。

1  取消事由1について

審決は、本願考案と引用例考案との構成を対比するに当たり、それらの機能からみて、本願考案の「遊び芯棒」が引用例考案の「レバー挟持体5、5’」に対応すると認定しているのである。すなわち、両者は、有底円筒の内部にスライドするように挿入されており、それに係合している駆動体の上下運動により、有底円筒を上下動する部材である点で、その機能が共通しているものであるから、上記のとおり、対比認定し、これに基づき、一致点を認定した審決に誤りはない。

2  同2について

引用例考案における挟持体5とレバーの先端間及びレバーの先端と挟持体5’との間は、常時、バネにより間隙が生じないように強く押圧されているから、挟持体5と挟持体5’は、正に一体となってピストンロッド内を上下動している状態であり、挟持体は構成上からも作用効果上からも1本の棒状体を示唆するものである。そして、バネに付勢された1本の棒状体からなる折りたたみブレード40を往復動させるために、コネクテイングロッド47をカップリング48にクランクピン49によって固着した構成は、周知例に記載されているように、本願考案の原出願日より前に周知であり、引用例考案におけるレバー機構による運動伝達機構をクランク機構に代えることは、当業者が容易に予測することができるものである。

上記のとおり、周知の技術を引用例に適用して本願考案の構成を採用することが容易である以上、これによる作用効果は、当業者にとって予測できるものであり、格別のものではない。

また、本願考案においても、クランク杆と遊び芯棒とはクランクピンによって螺着されており、該螺着部にはクランクの運動伝達に伴う力が作用するものであるから、本願考案と、引用例考案とは、「螺着部における摺動」と「挟持部におけるこすれ」の違いはあるものの、駆動体と被駆動体間には紙折りに要する力が作用し、磨耗や騒音は、それが生ずる部位や程度の差こそあれ、両考案において共に生ずるのである。また、本願考案では、クランク杆と遊び芯棒との螺着部の磨耗や騒音は少ない分、バネによって上方に押し上げられている遊び芯棒の上端面と調節ネジ下端面との間に部材の磨耗や騒音を生ずることになる。

したがって、本願考案に原告の主張する格別の作用効果があるとすることはできず、取消事由2も理由がない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

(1)  本願考案の要旨が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがなく、また、甲第2号証の1、2によって認められる本願考案の明細書及び図面によれば、本願考案は、上記構成により、「クランクピン(10)の上下運動は、電動制御機構(1)の回転軸(2)の電動で偏心板(5)が回転して、枢着のネジ(8)が円軌道回転することにより、枢着のクランク杆(6)が匣内においてクランク運動することにより行われる。そして該ピン(10)のクランク運動がナイフ軸(16)の長孔(26)内で行われると、該軸(16)の筒内に遊嵌され該ピン(10)に支持されている遊び芯棒(25)は、弾性部材(24)の弾力のもとに筒内をスライド上下運動することになり、その上動は、接面している上方の調節ネジ(28)を押上げることになり、該ネジ(28)に螺着しているナイフ軸(16)が該ネジ(28)と共にそのまゝ押上げられ、紙折ナイフ(14)は上動するし、逆にその下動は、該芯棒(25)の下面が弾性部材(24)を押すから、その押されたバネ圧により該軸(16)全体は同時に降下して、該軸(16)はクランク上下動してナイフ紙折作業が行われる。」(同明細書6頁1~19行)という各構成部位の動作を可能としたものであり、これによって、従来技術のうち、ナイフ軸をレバー上下駆動する方式の欠点であるレバーの上下運動によるレバー支持部材との間の疲労、磨耗、これによるナイフ上下速度の狂い、騒音、カム磨耗によるレバー運動の微妙な狂い、機構の複雑長大化等を解決することを目的とし(同明細書3頁6~11行、手続補正書2頁7(2)項)、右目的を実現した点に特徴を有する(同明細書7頁11~19行、手続補正書2頁7(4)項)ものである。

(2)  他方、甲第3号証によれば、引用例の実用新案公報の実用新案登録請求の範囲に「ピストンロッド1の下端に油受皿2及び折包丁3を設け、該ロッド内にスプリング4及びレバー挟持体5、5’を内蔵せしめ、上端には調節杆6を形成してカム7の回転によりレバー8を介して折包丁3を作動させる様にした紙折畳機用折包丁上下動装置。」との記載があることが認められ、上記記載と、同公報の「レバー8はカム7の回転によりコロレバー9及び連結リンク10を介して梃子運動し、その先端8’はシリンダー軸受12の側面に開穿した縦長ガイド17とロッドの通孔16とを貫挿通し、挟持体5、5’間に挟入せしめてピストンロッド1を支承すると共に折包丁3を上下動させる。即ち回転カム7の回転によりコロレバー9と連結リンク10とが往復運動し、レバー8の先端8’がシリンダー軸受12を滑合するピストンロッド1に内蔵されたスプリング4と調節杆6とで押圧されている挟持体5、5’間に挟みつけられ、ピストンロッド1に上下運動を伝達する。」(同2欄20~31行)との記載によれば、引用例考案は、正に本願考案が改善の対象とする従来技術である「レバー上下駆動方式」をその構成として採用する考案であることが認められる。

そして、上記記載と引用例公報の「挟持体5、5’はレバーの先端8’を挟持しレバー8の弧を描きながらの上下動(往復運動)をピストンロッド1の上下運動(垂直上下動)にするため、その上面又は下面を円形に形成して該ロッド1内に内蔵し挟持体5はスプリング4により押し上げられ、5’は上部より調節杆6によって押しつけられる。」(同2欄8~13行)との記載及び同公報の第1、第2図によれば、引用例考案における紙折ナイフの上下動は、カム7の偏心回転運動が、コロレバー9及び連結リンク10を介してレバー8に伝達され、支軸11を支点とするレバー8の先端部の上下円弧運動により、シリンダー内に挿入されたレバー挟持体5、5’を交互に上下動させることによって行われるものであると認められる。

そして、レバー8の先端とレバー挟持体5、5’との上記構成に照らせば、レバー8の先端部が最も下方に移動する過程において、上方のレバー挟持体との接点を支点として、中心軸に対し対象の位置にある作用点において下方のレバー挟持体を押し下げる作用を行った後、レバー8の先端部上面が上方にあるレバー挟持体5’の円弧と、また、レバー先端部下面が下方にあるレバー挟持体5の円弧とそれぞれ摺動しつつ接触部位を序々に変えてゆき、レバー8の先端部が最も上方に移動する過程において、下方のレバー挟持体5との接点を支点として中心軸に対し対象の位置にある作用点において上方のレバー挟持体5’を押し上げる作用を行い、さらにレバーの円弧垂直運動に伴い、当初の位置に戻って、上記のような運動を繰り返すことが明らかである。そして、円弧運動による垂直運動を行うレバー8の先端部は、それぞれの上面又は下面が円形に形成されたレバー挟持体の上面又は下面と、常に接触位置を変えながら同一線上で接触しつつ、接点を支点又は作用点として上記のような力を伝達しており、このような相互の接触・作動がレバー先端部とレバー挟持体との擦れ合いの原因となっていることは明らかである。

また、挟持体5、5’の上下動に関与する作用力は、中心軸に対し、対象の位置にある作用点及び支点において生じ、中心軸に平行する純粋に上向き又は下向きの力ばかりでなく、同軸に直交し、レバー挟持体をピストンロッドの内壁に押しつけるように働く力をも派生し、これが上下の挟持体とピストンロッド内壁との擦れ合いの原因をなしていることが認められる。

上記の事実からすると、引用例考案においては、長期間の使用により、レバー先端部とレバー挟持体及びレバー挟持体とピストンロッドの内壁との各当接部間に磨耗を避けられず、その結果、ナイフの上下速度に狂いを生じ、ナイフ位置の微調整が困難となり、また、上記接触による騒音等の問題を生ずることが容易に推認できる。

(3)  以上のとおり、本願考案の一つの長棒状の部材である遊び芯棒と引用例考案の二つの別部材からなるレバー挟持体とは、その構造上も機能上も異なることが明らかであり、この両者を同一視し、本願考案と引用例考案とが「筒孔内をスライドする遊び芯棒を遊嵌内蔵させ」る点で一致するとした審決の認定は誤りというほかはない。

そして、前記(1)に認定のとおり、本願考案は、引用例考案における叙上のような問題点を従来技術の欠点として指摘し、一つの長棒状の部材である遊び芯棒と、これに固着されたクランクピンをクランク機構によって上下動させる構成を採用することによって、上記欠点を解消するという作用効果を奏するものと認められるから、引用例考案との対比において、本願考案の奏する作用効果には顕著なものがあるというべきであり、これを審決のいうように「予測し得る以上の格別の効果が生じるものとも認められない。」ということはできない。

したがって、引用例におけるレバー挟持体に代えて本願考案の遊び芯棒を採用し、その駆動機構として周知のクランク機構を採用することが当業者にとって容易であるとした審決の判断は、本願考案と引用例考案との上記のような構成及び作用効果の差異を看過した結果、その容易想到性の判断を誤ったものというべきである。

(4)  被告は、引用例考案におけるレバー挟持体5、5’の間は、常時バネにより間隙が生じないように強く押圧され、一体となってピストンロッド内を上下しているから、構成上からも作用上からも一本の棒状体を示唆するうえ、紙折り機においてクランクピンとクランク機構を採用した構成が本願の原出願前に周知であるから、引用例考案のレバーとレバー挟持体の構成に代えて、本願考案の構成を採用することは、当業者が容易に予測することができるものであると主張する。

しかしながら、レバー先端部の円弧運動を受けたレバー挟持体がピストンロッド内で垂直上下動を行うことを可能とするためには、レバー挟持体が二つの別部材で構成されなければならないことは当然の技術事項であるうえ、挟持体がレバーの先端部を上下から挟んでこれと常時当接させる必要があるほか、円滑な動きを可能とするためには、挟持体の上面又は下面を円形に形成しなければならないなど、レバー挟持体とレバー駆動方式においては特殊な構成が必要不可欠であり、引用例考案の構成自体から、挟持体を棒状の一つの部材である遊び芯棒に置き換えることは、当然に示唆されるものではない。

また、甲第4号証によれば、クランク駆動方式による折り畳み装置に係る周知例は、折り畳みブレード40を取り付けたプランジャ42を、コネクティングロッド47を介して直接クランクピン49に固定する構成を採用しており、本願考案のようにナイフ軸内に遊び芯棒や弾性部材を介在させて、間接的にナイフ軸を作動させる構成を示唆するものでもないから、引用例に周知例を合わせたところで、本願のような構成が直ちに可能となるものともいえない。

被告の主張は採用できない。

2  以上のとおりであって、審決の上記認定判断の誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから、審決は違法として取消を免れない。

よって、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 三代川俊一郎 裁判官 木本洋子)

平成2年審判第657号

審決

東京都中野区本町5-9-12

請求人 株式会社 正栄機械製作所

東京都文京区白山3-1-6

代理人弁理士 野口秋男

昭和61年実用新案登録願第170373号「ナイフ紙折り機のナイフ調節装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年 5月13日出願公開、実開昭62- 74652)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和58年4月19日に出願された特許出願(特願昭58-68867号)を実用新案法第8条第1項の規定によって昭和61年11月6日に実用新案登録出願に変更したものであって、その考案の要旨は、平成2年2月1日付けの手続補正書によって補正された明細書と図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された、

「匣体(3)内に電動制御機構(1)により回動する電動クランク機構を設け、又、上方開口部内周をキヤツブネジ部(22)となし、匣体(3)の対向の上下貫通孔(17)(18)を貫通する長さで下端に紙折りナイフ(14)を取付けた有底円筒のナイフ軸(16)の筒孔(23)内に対し、その奥底部内に弾性部材(24)を挿入し、その上に筒内をスライドする遊び芯棒(25)を遊嵌内蔵せしめ、クランクピン(10)を該芯棒(25)に対し、該ピン(10)に対応するナイフ軸(16)壁に穿設した長孔(26)を通して螺着して、ナイフ軸(16)を該貫通孔(17)(18)に縦貫せしめ、該軸(16)の上方の該ネジ部(22)に対し、下端が該芯棒(25)に当接する調節ネジ(28)を螺着し、該ネジ(28)にゆるみ止め固定ナット(29)を該軸(16)の上縁に向って螺着せしめてなるナイフ紙折り機のナイフ調節装置。」

にあるものと認める。

これに対して、原査定の拒絶理由において引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である実公昭47-18009号公報(以下、引用例という)には、上方開口部内周をキヤツブ(15)のネジ部とし、シリンダ軸受(12)を貫通する長さで下端に折包丁(3)を取付けた有底円筒のピストンロツド(1)の筒孔の奥底部内にスプリング(4)を挿入し、その上に筒孔内をスライドするレバー挾持体(5)(5')を遊嵌内蔵させ、コロレバー(9)及び連結リンク(10)を介して回転カム(7)により上下動されるレバー(8)の先端をピストンロッド(1)壁に穿設した通孔(16)を通してレバー挾持体(5)(5')間に挾入して、ピストンロツド(1)をシリンダ軸受(12)に縦貫させ、ピストンロツド(1)の上方のネジ部にキヤツブ(15)を固定し、キヤツブ(15)の中央のネジ孔に対し、下端がレバー挾持体(5')に当接する調節杆(6)を螺着し、調節杆(6)にゆるみ止めを設けてなる紙折畳機の折包丁上下動装置が、記載されているものと認められる。

そこで、本願の考案(前者)と引用例に記載された考案(後者)とを対比すると、後者の「シリンダ軸受(12)」がその機能からみて前者の「匣体(3)」に、以下同様に、「折包丁(3)」が「紙折りナイフ(14)」に、「ピストンロッド(1)」が「ナイフ軸(16)」に、「スプリング(4)」が「弾性部材(24)」に、「レバー挾持体(5)(5')」が「遊び芯棒(25)」に、「通孔(16)」が「長孔(26)」に、「キヤツブ(15)の中央のネジ孔」が「ネジ部(22)」に、「調節杆(6)」が「調節ネジ(28)」に、「紙折畳機の折包丁上下動装置」が「ナイフ紙折り機のナイフ調節装置」に、それぞれ対応するものと認められるから、両者は、上方開口部内周をネジ部とし、匣体を貫通する長さで下端に紙折りナイフを取付けた有底円筒のナイフ軸の筒孔の奥底部内に弾性部材を挿入し、その上に筒孔内をスライドする遊び芯棒を遊嵌内蔵させ、遊び芯棒を上下にスライドさせる部材を遊び芯棒に対し、ナイフ軸壁に穿設した長孔を通して関連させて、ナイフ軸を匣体に縦貫させ、ナイフ軸の上方のネジ部に対し、下端が遊び芯棒に当接する調節ネジを螺着し、調節ネジにゆるみ止めを設けてなるナイフ紙折り機のナイフ調節装置、である点において一致し、下記の3点において相違するものと認められる。

<1>遊び芯棒を上下にスライドさせる部材が、前者は、電動制御機構により回動する電動クランク機構のクランクピンであり、したがって、遊び芯棒にクランクピンが螺着される構成となっているのに対し、後者は、コロレバー及び連結リンクを介して回転カムにより上下動されるレバーであり、したがって、遊び芯棒間にレバーが挾入される構成となっている点。

<2>匣体が、前者は、クランク機構をも内設するものであるのに対し、後者は、レバーの先端を内設するにすぎない点。

<3>ゆるみ止めが、前者は、固定ナツトをナイフ軸の上縁に向かって螺着する構成であるのに対し、後者は、どのような構成か不明である点。

しかし、前記相違点<1>についてみると、回転運動を往復運動に変える手段として往復動部材にクランクピンが螺着されたクランク機構は、従来周知のものであり、かつ、電動制御機構によりクランク機構を回動することも従来周知のことであり、ナイフ紙折り機において、それらの機構を採用することも従来周知のことである(例えば、特開昭53-14027号公報)ので、前記相違点<1>の後者の構成に代えて電動制御機構により回動する電動クランク機構を採用し、本願考案のようにクランク機構のクランクピンによって往復動部材である遊び芯棒を上下にスライドさせるべく、遊び芯棒にクランクピンを螺着する構成とすることは、当業者が格別困難性を要しないことである。また、そうすることによって、予測し得る以上の格別の効果が生じるものとも認められない。

次いで前記相違点<2>についてみると、クランク機構を採用することについては前記相違点<1>のところで判断したとおりであり、そのクランク機構をも匣内に設けることは、当業者が必要に応じて適宜採用し得る単なる設計事項である。

さらに前記相違点<3>についてみると、ゆるみ止めとして固定ナツトを用いることは、当業者が必要に応じて適宜採用し得る単なる設計事項である。

したがって、本願の考案は、引用例に記載された考案及び前記従来周知の事柄に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成3年4月18日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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